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History

和牛ヒストリア

この一頭には、
約千年の記憶が宿っている。

神戸ビーフの名は世界中に知られており、しばしば「奇跡の肉」とも呼ばれます。しかし、本当の奇跡は、一頭の牛が生まれるまでの物語にあります。約1000年以上にわたる人と牛の共生。血統を守り抜いた但馬の山間地の人々の執念。科学と制度によって裏付けられた、ゆるぎない品質。そんな世界が認める「神戸ビーフ」の真価を、紐解きます。

01

和牛の原点にして頂点となる、
銘牛の遺伝子

神戸ビーフの素牛、但馬牛(うし)には、
他の和牛にはない特別な“血統の物語”があります。
遺伝子に隠された神戸ビーフの真価に迫ります。

世界一厳しい選抜。
それが「神戸ビーフ」という称号

神戸ビーフの素牛である「但馬牛(たじまうし)」は、日本の和牛改良の原点にして頂点とも言える存在です。兵庫県では他県産の牛の導入を一切せず、100年以上にわたり純粋種のみで計画的な交配改良を行う「閉鎖育種」体制を行っています。

また但馬牛であればすべてが神戸ビーフになるわけではありません。神戸ビーフと呼ばれるには、極めて厳格な条件をすべて満たす必要があります。これらの基準をクリアした牛肉だけが、晴れて「神戸ビーフ」として認定され、「神戸肉之証」という証明書とともに市場へ出荷されます。

他者の追随を許さない、
王者の風格とも言える極上の霜降り。

神戸ビーフの美しさは、見る者を魅了する「サシ」にあります。 この「サシ」こそが、神戸ビーフが誇る脂の質と味わい、そして選び抜かれた証なのです。

サシは「霜降り」とも呼ばれる脂肪の網目模様のこと。神戸ビーフのサシは筋繊維のきめが細かく、筋間に均一に入り込んでいるのが特長。そのため肉自体の融点が低く、舌の温度でとろけて、食感の良さにつながるのです。この脂の質を支えているのが、豊富なオレイン酸を含む脂肪構造です。

02

数字で見る、神戸ビーフの卓越性

「神戸ビーフ」の本質は、
口にした瞬間の感動だけではありません。
歴史、出荷頭数、認定基準…
確かな“数字”の裏付けが、
このブランドの真価を物語ります。

和牛全体の

0.16%

日本国内で年間出荷される黒毛和種はおよそ400万頭。その中で「神戸ビーフ」として認定されるのはわずか約6,800頭のみ。選抜には厳格な基準が適用されており、これは全体の0.16%程度という希少な数となっています。

輸出量

68.5t

神戸ビーフは2012年に輸出を開始し、現在は世界42カ国以上、2023年度の輸出量は68.5tと和牛輸出の中でもトップクラスの出荷量。特にEU・米国・中東が多く、厳しい衛生・品質基準をクリアできる数少ないブランドです。

世界農業遺産畜産部門

初認定

但馬牛の生産地である兵庫県但馬地域は、2024年にFAO「世界農業遺産(GIAHS)」に認定。これは、日本の畜産分野としては初の快挙であり、但馬牛の伝統的な飼育方法や地域に根ざした畜産文化が国際的に評価された結果です。

歴史

700年前

室町時代の古文書『国牛十図』には、但馬の牛が「良牛」であると記録されており、当時から全国的にも優れた牛の産地として知られていたそうです。長く険しい山間地で守られてきた但馬牛の原種から生まれた存在が、今日の神戸ビーフなのです。

一貫生産率

100%

兵庫県で生まれ、育ち、出荷されるという完全一貫生産体制は、全国の和牛ブランドで神戸ビーフだけが成し遂げている厳格な管理方式です。すべての牛に個体識別番号と血統証明書が付き、お店に並ぶ神戸ビーフが「どこで生まれ、誰が育てたか」を確認できます。

国内外指定登録店

1,122

「神戸ビーフ」を正式に扱うことが許された指定登録店は1,122店、そのうち海外店舗は欧米・アジア・中東などで555店(2024年9月時点)。他ブランド牛でこのような認証制度が確立されている例は少なく、国際流通の制度設計においても神戸ビーフは群を抜いています。

03

歴史が証明する、
神戸ビーフの頂点性

明治の開港とともに始まった、神戸ビーフの歴史。
食文化の転換、血統を守るために
立ち上がった農家たちの挑戦、
世界に認められるための制度と
証明を整えてきた軌跡を辿ります。

外国人が名付けた
「KOBE BEEF」
港町で始まった肉食文化

1868年、神戸港が開かれ、外国人居留地が整備されると、日本にはなかった牛肉を食べる文化が上陸しました。横浜での牛肉需要に応えるため、神戸から運ばれた牛肉が特に美味であると話題になり、外国人たちはこの牛肉をKOBE BEEFと呼び称えました。それは偶然ではなく、但馬の山間地で丹精込めて育てられてきた但馬牛の素質と、神戸という国際都市の感性が融合して生まれた味の奇跡とも言えます。この時代から、神戸ビーフは異国の舌をも魅了し、「神戸」の名は世界の美食文化のなかに刻まれ始めました。

1868

「混ぜない」という選択。
但馬牛、純血回帰の決断

明治時代以降、日本各地では西洋種との交配による肉用牛の改良が盛んに行われました。しかし、味や肉質の劣化が明らかとなり、兵庫県は早くから「純血の但馬牛を守る」という決断を下します。1910年には美方郡で優良牛登録簿が制定され、牛の血統を公的に記録する全国初の制度が始まりました。この流れを受けて、1939年に誕生した伝説の種雄牛「田尻号」は、現在の和牛の99.9%にその遺伝子が受け継がれることになります。他を交えず、優れた血統を守り抜く。その強い意志こそが、神戸ビーフの本質を形づくったのです。

1910

名ばかりの
「神戸牛」に終止符を。
ブランドの定義と証明へ

昭和から平成にかけて、神戸牛の名前は全国に知られるようになりました。しかし、その人気が高まるにつれて神戸ビーフの偽物が出回り始めました。そんな中で、1983年に設立されたのが神戸肉流通推進協議会です。協議会は、血統・飼育地・月齢・格付すべてに明確な基準を設け、さらに「神戸肉之証」によって本物だけを証明する仕組みを構築。「誰が育てたのか」「どのような牛か」が正しくわかる、トレーサビリティとブランド保証の時代が始まりました。現在、神戸ビーフの認定基準は、世界で最も厳しいと言われています。

1983

信頼の可視化と輸出戦略。
世界で一番
おいしいブランド牛へ

2015年、神戸ビーフは日本で初めて地理的表示(GI)保護制度に登録された牛肉となりました。これは、「ただ美味しい」という評価を超えて、産地と品質が結びついた唯一無二の存在として国が公式に認めた証です。同時に、DNA鑑定や血統証明、個体識別番号による追跡システムが整備され、世界基準の安心と信頼を獲得。2012年の初輸出(マカオ)を皮切りに、現在では42カ国・地域へ展開し、欧州・アジア・中東のレストランでも「KOBE」の名が並んでいます。

2015

神戸ビーフは、
単なる奇跡の肉
ではありません。

受け継がれ、選ばれ、
証明されてきた必然の味であり、
血統を守り抜いた人々の情熱、
科学と制度が築いた、
世界に通じる品質が生み出しました。
その背景を知ったとき、
食への価値観がきっと変わります。